山猫日記

三浦瑠麗 山猫総研

新年に思うー2015

あけましておめでとうございます。本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

昨年の年頭にはじめた山猫日記も何とか一年続けることができ、振り返ってみれば約50本の記事をお届けすることができました。昨年の新年の抱負であった、週一本のノルマを何とか守ることができました。

本日は、新年の年頭にあたって思うことと、山猫日記の本年の抱負をまとめておこうと思います。今年のお正月は、夫と私それぞれの地元にシャトル帰省しつつ、併せて地方の温泉に立ち寄るという慌しいものでした。その中で、改めて感じたことは、いろいろな意味での分断です。

分断や、格差というと、とかく悪いものとして捉えられてしまうのですが、ここでいう分断は、必ずしも悪い意味でだけで申し上げているものではありません。分断には、分断が作り出されるに至った構造があり、分断の両側から悪意をぶつけ合っても通常は生産的な結果には結びつかないからです。

まずは、経済の分断。地方と東京の経済における一番の分断は足元の物質的な豊かさではないように思います。物価水準の差もあって、地方における生活には東京に比べて豊かな面も多いからです。最大の分断は未来に対する希望という捉えがたい面においてではないかと思っています。仮に、希望とは「今日よりも、明日は良くなる。そのためには必要な変化も前向きに捉えよう」、という空気だとして、その差です。典型的な斜陽産業を抱える田舎にルーツを持つ身としては、別に新しい発見ではないはずなのだけれど、まざまざと見せ付けられると改めて考えさせられるものがありました。「今日より明日が良くなるはずがない。だから、いまあるものを守っていこう」と、当たり前のように感じている層に対して、どのように希望を語るのか。

もう一つは価値観の分断。今回、泊まってしまった温泉旅館が、(悪い意味で)レトロな趣味だったせいもあり、世代や男女をめぐる価値観の分断についても改めて考えさせられました。カラオケ大会に使われていそうなステージとミラーボール(!)の配された宴会場でお食事をいただきながら見えてくる風景は、東京ではなかなか目にしなくなったものでした。まず従業員側で走るように忙しく立ち働いている全員が女性。男性の従業員もいるのだけれど、なんとなく漂ってくる切迫感が違います。チェックインの時に、部屋まで重いスーツケースを運んでくれたのも、そんな力があるようには到底思えないような中年の女性。さすがに、途中から自分で運んだものの、客に運ばせては怒られるとしきりに恐縮されてしまいました。

客の側は、年末という時期もあってほぼすべてが3世代ないし4世代の家族連れ。年末に家族総出で温泉に来ている家族というのは豊かな層なのだろうけれど、みな一様に子沢山な様子で少子化どこ吹く風という印象でした。ずいぶんと観察していましたが、子供を補佐して食事を食べさせているのはすべて女性。途中で持って来られたご飯を皆に盛っているのもすべて女性。

そして、大浴場で一緒になった女子中高生達が話題にするのは、例外なく、テレビ番組やアイドルグループについて。良い家庭の娘達のはずだから、学校ではまじめに勉強しているのだろうし、少ない情報を元に上から目線でレッテル貼りすべきではないのだろうけれど、教養を養う機会を与えられているようにはあまり見えない。

田舎のちょっと裕福な家庭に育った彼女達の人生の先にあるのは、子育てとサービス業での労働と、若い時期に、アイドルグループが提供するつかの間の非日常の期待の感覚なのだろうなと。もちろん、東京の長時間労働と、長時間通勤と、待機児童と、仕事と子育てを両立させるワーキングマザーの悲壮感を提示したところで、彼女達は魅力を覚えないだろうと思うけれど。

彼女達の人生や感覚を、果たして絶望と呼ぶべきか、正直わかりません。変わりたくない地方の有力者達の感覚を絶望と呼ぶべきかも難しいところです。本人達がそれを自覚していない場合が多いし、もっともっと恵まれない層が存在することも明らかだからです。昨年、コンパッション(≒共感)を軸としてスタートした山猫ですが、本年取り組むテーマの底流を流れるのは、このあたりの希望と絶望についてです。

政治に目を向けると、2015年はいろんな意味で自民党の年となるでしょう。昨年末の衆議院選挙で与党は2/3の議席を獲得して圧勝しました。大型の国政選挙のない本年は、自民党結党60年の節目の年でもあり、政治はいやおうなく自民党を中心に展開します。イデオロギーでもない、政界裏話でもない、構造に着目した政治評論を目指す山猫は、その手法を自民党という政党に当てはめて、その本質や行く末について論じたいと思います。

もう一つは、安全保障についてです。昨年7月の閣議決定を経て、集団的自衛権の行使を可能とする関連法案が、予算成立後には国会に上がってくることでしょう。本年は戦後70年の節目の年もありますから、安全保障をめぐる諸論点について、イデオロギーや歴史問題とも絡まりながらヒートアップした議論が展開されるはずです。ここでも、山猫は、戦後の安全保障論壇の作法から少し外れて、法律論だけでない、感情論だけでない分析を心がけたいと思います。

それでは、本年も変わらぬご愛顧をどうぞよろしくお願いいたします。

2015年1月3日

三浦 瑠麗

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