山猫日記

三浦瑠麗 山猫総研

虚無感の内実ー衆院選を前にした日本政治の激動

日本政治が動いています。解散を前に、小池都知事は「希望の党」を立ち上げました。しがらみのない政治を目指すと言います。
沈みゆく船から逃げ出すがごとく、民進党からは離党者が相次いでいます。このままいけば、前原民進党は都議選と同様、埋没して壊滅でしょう。窮余の策として前原さんは党員の集団離党を容認するとも、民進党ごと希望の党に合流するとも報道されています。「希望の党」への合流は、憲法や安全保障問題での一致を条件として、旧民進の左派を切り離すこととなるでしょう。事態はなお流動的ですが、選挙後に解党する流れはもう誰にも止められないでしょう。

希望の党」が掲げている政策は、消費増税先送り、原発ゼロ、憲法改正。政策の組み合わせに、どこまでも乾いたプラグマティズム(=現実主義)を感じます。これまでの、保守/リベラルの定食メニューに縛られる必要はないし、時代の雰囲気が差し示す方向に進んでいくことが悪いわけでありません。私は、元々が保守二大政党制論者です。

私が違和感を覚えているのは、そこに悩んだ形跡がないこと。青臭い議論の形跡も、人間味のある葛藤も、土臭い利権の匂いもしないのです。小池知事が登場して以来、私自身、その集団の本質を理解することに難儀してきました。ただ、小池さんの会見を見て、虚無感を覚えたことは告白しなければいけないでしょう。本稿を書いているのは、その虚無感と向き合うため。
地域政党である都民ファーストについては、「スタイルの党」の系譜にあると申し上げてきました。大事なのは、政策の中身でなくてスタイル。談合的でなく、オジサン的でもない。内実はともかく、多様性や透明性といった言葉を多用する。改革、希望、リセットと繰り返す。希望の党が提示したイメージビデオは、とてもわかりやすい。煙草を吸う小太りのおじさんの横を小池知事が颯爽と歩み去っていくのです。

小池氏の原動力となっている、しがらみを憎む気持ちには、共感する部分ももちろんあります。小池氏が歩んできた人生を思うとき、若くして注目を集めた才気活発な政治家が、自分を押さえつける陰湿な社会を、憎んで憎んで、歯ぎしりしている様子は想像に難くありません。

この、しがらみの政治が日本から明るい将来を吸い取っているのも事実です。毎年100兆円近いお金を高齢者福祉に投入し、子供たちの将来にどんどんツケ回しをする。次代を切り開く投資もまともにできない。グローバルには相手にすらされなくなりつつある。国を守る構えも中途半端なまま。何を変えようにも、ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ、いつまでも時間がかかる。

ただ、変わらない日本というシステムに絶望しても、そこに幾ばくか愛と憐憫はあるもの。自民党差配してきた利権というのは、ほとんどの場合、地場の団体と企業の優遇であって、巨悪というほど立派ですらないから。公共事業と許認可行政には、ねじ曲がった国家福祉という側面もあります。

政治の中に存在する様々な悪の中で、利権をめぐる悪というものをどこに位置づけるべきか。20世紀半ばに颯爽と登場した政治運動は、例外なく旧時代の利権を攻撃しました。財閥のおじさん達と違って、青年将校たちはクリーンではあったのだから。

日本政治は、今後どのように展開していくのでしょうか。自民党希望の党が二大勢力を形成することにはなるでしょう。選挙後には、憲法改正を眼目とした時限的な大連立もあるかもしれません。

今後、護憲左派が本当には力を持っていなかったことが明らかとなるでしょう。旧世代の護憲派達は、一部のメディアと共に最後の抵抗を続けるのでしょうか。思想テストによって選別され、希望の党に吸い寄せられた政治家たちは数年後には離散している存在。まあ、力ある者は小選挙区で勝ち抜けばいいのだから別に良いのだけれど。

安倍総理は、自民党を大敗させたうえで憲法改正を実現した宰相として歴史に残るのでしょうか。それでも良いと思っているフシもあるでしょう。勝敗ラインを低めに設定している以上、自公で過半数を確保すれば延命はできるのでしょうから。小池さんをダシに既得権益に切り込むような芸当ができるか。こちらの方については、引き続き、悲観的ですが。

小池さんの強みは、「私の成功」が、日本社会にとって良いことであるということに一念の疑念すら持たないこと。だからこそ、大衆の乾いた熱狂を喚起することができるのでしょう。自己目的化した権力は強いのです。キャッチフレーズの中身に違和感が少ない分、政治運動の本質がより露見するのかもしれません。

希望の党に集っている方々には、好きな方もいるけれど、そこには言いようのない「虚無」を感じます。深淵の淵に立って底を覗き込んだ時、暗闇だけがあったから。そして、暗闇もまたこちらを見ている感じがしたのです。

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