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山猫日記

国際政治学者、三浦瑠麗のブログです

選挙結果の意味するところ

投票率の低下により自民への追い「風」の影響が少なかった

 衆議院選挙は与党の2/3を超える圧勝で終わりました。選挙期間中は、国民の関心が低いと批判された選挙でしたが、終わってみれば予想通りの与党の圧勝で、マスコミや識者の多くもその意味するところについて考えあぐねているようです。コンセンサスらしい状況にあるのは、野党が現実的な選択肢たり得なかったという点でしょうか。

 選挙をどのように総括するかということは日本の民主主義にとって非常に大切です。特に、野党第一党である民主党は、党首選を控えて党としての基本路線を検討しているところでしょう。維新も、大阪と東京でそれぞれ戦略を練り直していることでしょう。選挙の総括が正しくないと、そこから出てくる結論も正しいことは期待できませんから、特に野党にとっては正念場です。

 詳細な分析に入る前に、山猫日記で行っておりました選挙予想の自己採点をすると、下記のような状況です。

《予想》

自民(310)、公明(33)、民主(68)、維新(32)、共産(17)、次世代(3)、生活(2)、社民(2)、無所属(8)

《結果》

自民(291)、公明(35)、民主(73)、維新(41)、共産(21)、次世代(2)、生活(2)、社民(2)、無所属(8)

 私は、今回の選挙では、いわゆる「風」で動く無党派層の票は自民党により多く流れると予想しておりましたので、低投票率自民党に災いしたようです(「風」の要素は完全には捨てきれず、比例では議席を増やしていることには注目すべき)。それでも、2/3を超える得票ですから大勢に影響はありません。

小選挙区が主戦場であり共産党の「躍進」を軸に分析すべきでない

 詳細な分析に入る前に、過去一週間の選挙関連の報道や解説を聞いていて気になった点について簡単にコメントしたいと思います。

 代表的なものが、次世代の党が壊滅的な敗北を喫したことと、共産党の躍進を重ね合わせて、野党にとっては、与党との対決姿勢が重要であると解説しているもの。次世代の党については、比例でも伸び悩んだことを考えると右派やネット右翼の存在が過大評価されていたということは正しいと思います。自民党が十分にこの層の支持を取り込めていたからという解釈もあり得るでしょうが、この点には今後とも注意が必要でしょう。日本にも、欧米のような保守派と右派(あるいは宗教右派)の分離という現象が生じるのかどうかは興味深い点です。

 他方、共産党の躍進については、民主党政権の失敗の印象が強い中、リベラル系批判票の受け皿となったということや、そもそもほぼ全小選挙区に候補者を立てた、共産党の過去からの戦略の転換の影響も大きかったはずです。加えて言えば、共産党が票を伸ばしたのはあくまで比例区であり、小選挙区はわずかに一議席です。これまでも、申し上げてきたとおり日本の選挙制度は、小選挙区が主戦場ですから共産党比例区での議席から、日本政治全体にとっての意味合いを導き出すのはナンセンスです。

 では、今回の選挙の総括として何が重要なのか、見ていきましょう。日本の選挙を分析する前提についても簡単におさらいします。まず、制度の趣旨や、導入の経緯から言って衆議院選挙の主戦場は小選挙区です。小選挙区が政権選択を担い、比例区小選挙区では死票となる少数意見を補完的に汲み取るための仕組みです。また、日本の多くの有権者の投票行動においては小選挙区比例区がリンクしていますので、共産党や、公明党などの強力な支持基盤を有する少数政党以外は、比例区ではあまり差がつきません。そう言った二重の意味で小選挙区が重要になるのです。

 そして、小選挙区には性質によって5つのタイプが存在します。都市型(62選挙区)、農業型(74選挙区)、工業型(12選挙区)、郊外型(138選挙区)、リベラル型(9選挙区)です。もちろん、295の小選挙区すべてに独自の歴史と人間関係とストーリーがあることは事実です。政治に実際に関わっている方々や、選挙のプロの方々は、すべての政治はローカルであることをよく理解されていらっしゃるので、この点を強調されます。それは、もちろん正しいのですが、共通の傾向ということもまた事実ですし、この点を意識しないとどうしても全体像が見えなくなってしまいます。

 反対に、大手メディアや学者は、全国の平均値を使います。例えば、日本では無党派層が何割という議論や、全国レベルの支持政党データをもとに議論を組み立てるやり方です。このやり方は、いかにも乱暴で、日本政治の実態を捉えていません。そこから導き出される分析も、多くの場合は変なことになってしまいがちです。

選挙区タイプ別分析

 それぞれの選挙区タイプごとの2005年(郵政選挙)、2009年(政権交代選挙)、2012(政権奪回選挙)、2014年(アベノミクス選挙)で得票率を見てみましょう。選挙区が300から295に減ったり、区割りが変更になったりはしているのですが、それぞれ選挙と選挙区の特徴が出ていて興味深い結果となっています。

 図1の都市型選挙区ですが、今般の2014年のアベノミクス選挙においては、自民党が50%近い得票を獲得しており、小選挙区での勝利は揺るぎません。4回の選挙ごとの各党の得票率の増減を見ると自民党が圧倒的に安定している状況も良くわかります。これが、自民党の強みの本質であり、当選を重ねる議員が持っているパーソナルボートの強みです。興味深いのは、民主党が大勝した09年の政権交代選挙の結果です。このとき民主党に吹いた風は、12年の選挙では維新やみんなに吹きました。都市型選挙区の風向きの変わりやすさを物語っています。

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 対照的なのが、図2の農業型の選挙区です。ここでは、自民党の強みがさらに強く、しかもあまり風が吹いていません。09年の政権交代選挙でさえ、自民党は過半数近くの得票を得ています。その他に分類されている候補の多くは、国民新党をはじめとする保守系自民党に近い候補者ですので、この傾向はさらに強まります。農村における自民支持は揺るぎません。

 

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 図3の工業型の選挙区では、有権者に占める組織労働者の割合が高いので、民主党への支持が根強い。ただ、組合の影響が強い工業型といえる選挙区は295のうち、12選挙区でしかありません。工業型選挙区は、あくまで例外的な現象なのです。

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 都市、農村、工業の各選挙区タイプの性質を併せ持った選挙区タイプが図4の郊外型です。傾向も、折衷的なものとなっていますが、自民党の安定感は際立っています。

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 最後が、リベラル型。リベラル型においては、自民党小選挙区において公明党の候補者を支持しており、まったく様相が異なっています。社民党共産党の存在感が大きいこと、民主党の存在感が小さいことも興味深い点です。もちろん、リベラル型は、小選挙区の9議席に過ぎませんので、例外的な選挙区ということもまた事実です。

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 ここから読み取れる意味合いの第一は全選挙区の2割にあたる農業型での自民党の優位です。この優位は、2009年の政権交代選挙区において一瞬揺らいだかに見えました。小沢一郎氏による個別農家へのバラマキ政策が効果を発揮し、野党が農村でも戦えるかに思えた。今回の選挙でその可能性が完全に潰えたことがはっきりしたのではないでしょうか。農村においてはパーソナル・ボートが重要であり保守無所属が受かる土壌はあるとはいえ、自民党の優位はちょっとやそっとでは揺らぎそうにありません。この点は、私自身、選挙前の認識を修正する必要を感じました。

 対して、全選挙区の1割に当たる工業型とリベラル型においては、その他の選挙区とは違う論理と力学で政治が動いているということです。工業型は組合票、リベラル型では学会票や、その他のリベラルな有権者の割合が際立って高いのです。

 とすれば、主戦場である小選挙区においてカギを握るのは都市型と郊外型の選挙区ということになります。両者を足して小選挙区の7割です。そして、両選挙区タイプにおいて、以上とはちょっと違う見方をすることで、さらなる真実に迫ることができます。鍵を握るのが、日本共産党と無所属の存在です。

 日本共産党というのは面白い政党で、ほぼ勝ち目のない小選挙区に候補者を出し続けます。比例区のかさ上げのためにしていることなのでしょうが、この共産党支持分は、確実に死票化し、小選挙区の当選ラインを下げる効果があります。また、無所属については、多くの場合は保守系無所属ということで自民党の補完勢力である場合が多いでしょう。少なくとも、イデオロギー的には保守的傾向が強い場合が殆どです。

有権者イデオロギー分布に基づく勝敗ライン

 以上の点を踏まえ、都市型と郊外型の選挙区について、共産党が獲得した「死票」分を除外し、無所属候補も含めて保守からリベラルへと、各党を綱領や政策から読み取れるイデオロギー上の分布に応じて並べ替えたのが図6及び7です。

 有権者が政党のイデオロギー上の立場に沿って投票しているとは限りませんし、それぞれの選挙区の候補者は、党の立場とは異なる方もあるでしょう。しかし、全体として言えるのは、自民党イデオロギー分布の真ん中にどっかりと居座っている状況です。現実的な勝敗ラインを考えると、これでは、野党は自民党に勝てるはずがありません。

 2009年の民主党の勝利でさえ、民主党のリベラルな政策が支持されたというよりは、当時は存在しなかった保守系自民不満票の受け皿となっていたと解釈すべきではないでしょうか。民主党の支持が減った分は、2012年にはみんなや維新に流れ、2014年には維新に流れた分と自民に戻った分があったようです。

 民主党は候補者レベルでも寄り合い所帯ですから、支持者の中にもリベラルな政策を支持する層と保守系自民不満票が存在していると思われます。仮に、民主党支持者のイデオロギーの分断のあたりに日本政治における「保守/リベラル分断線」とでも呼ぶべき線を引くとすると、下記のようになるのではないでしょうか。

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 小選挙区の勝敗を決する票数の7割は保守なのです。仮に、日本に二大政党制が根付くとすれば、それは保守系二大政党制以外にはリアリティーがないと常々申し上げてきたのはこのことです。

 選挙結果を踏まえ、民主党では代表選が戦われ、維新でも今後の路線を決める議論がなされることでしょう。政治の活性化のためにも活発な議論を期待するところですから、ぜひ、以上に申し上げたファクト(=事実)を踏まえたものとしていただきたいと思います。