山猫日記

国際政治学者、三浦瑠麗のブログです

エマニュエル・トッドさんに聞いたこと

昨日、BSフジのプライムニュースにでました。

エマニュエル・トッドさんのお話を聞くという企画でしたが、やはりトッドさんの本を読み込んでいる人に来て欲しいということで、伺いました。放送後にお話をさらに伺ったかんじでは、日本によくある、とにかく何を言うかわかった上で予定調和のなかで拝聴するという態度はトッドさんもそんなに好まれないのがよく分かりました。予言者みたいに持ち上げられると、逆に自分は緻密な人類学の歴史研究からきているということを強調されますしね。単にその手法を現代の分析に応用して見たらどうだろうと思ったのだとおっしゃっていました。予言者というより、他の人が見落としていることが人口動態などを通じてよく見えているということだと私は思っています。
あと、本全部読んでから来い、その上で議論しようということですよね。それは学者としてはもっともな態度だと思います。家族制度の詳細な解説をたくさんさせられるのは若干飽き飽きしているそうです。

とはいえ、お話は日仏の同通なので、ぽんぽんとリズムの良い会話にはなりませんでした。フランスのテレビだともっとガチャガチャできるとおっしゃっていましたから、やはり話し足りなかっただろうと思います。

フジがいつも作成するハイライトムービーをご紹介しようと思っていたのですが、残念ながら討論的要素がなくなっており、私の質問も残っていませんので、今回、備忘録的にトッド氏に聞きたかった質問とそれへのお答えの概要をメモしておきます。

(これは書き起こしではありません。あくまで趣旨でありメモです。)

 

三浦: サルコジ大統領をかつてトッドさんはご著書で酷評されていましたね。(注 サルコジ氏は”The word 'protection' is no longer taboo.” という有名なセリフがあり、保護主義に少し舵を切った部分がある。保護主義を唱えるトッド氏はトランプ政権の誕生に歴史的な意義を見出している)。

サルコジ氏の悪い所としてトッドさんがあげた「欠点」は、ほぼ全てトランプ大統領の描写に当てはまると思いますが。本国の大統領は許し難い点を看過できなくても、外国のことならばより客観的に見られるからでしょうか。だから、保護主義に舵を切ったトランプ大統領誕生を一定程度評価することができるのでしょうか。

トッド氏: 保護主義をとることの意味は超大国アメリカとフランスのような規模の小さな国では全然インパクトが違います。サルコジには知性が欠けているが、トランプにはある種の知性があると思います。トランプとサルコジではリーダーとしての規模が全然違う。わたしはその意味でもフランス至上主義者ではないでしょう?(笑)

 

三浦: トッドさんが提示したアメリカの家族形態である絶対核家族は、移民や多民族の包摂において排除的ということでした。その含意として、アメリカでは実力主義が良いものとされ、所得格差が教育格差を通じて再生産され、しかも白人から違う文化コミュニティである黒人や新規移民に所得移転することを嫌う傾向があるため、再分配が進まないということになります。差別も温存されていますから国民的合意に基づく分配がしにくい。私もこれがアメリカの格差を広げている原因だと思います。

そうだとすると、アメリカの家族制度を前提とした場合、(格差をこれ以上広げないためには)どんな移民政策が望ましいということになるのでしょうか。高技能移民ばかりを受け入れるように移民政策を転換させるべきなのでしょうか?トッドさんはもちろん、トランプ大統領の移民政策全てに賛成されるわけではないと思いますが、評価をお聞きしたいです。

トッド氏: トランプ大統領は、口で言うほど移民政策に関心がないのではないでしょうか。アメリカは開かれた国です。先進国は移民を必要とし続けます。移民を同化していく過程はそれぞれです。それぞれの国がそれぞれの対策を試行錯誤していくほかはありません。欧州はEUに主権を奪われて独自の移民政策をやりにくくなっています。それが問題です。むしろ逆に私が聞きたいのは、日本などはどうしていくのかということなのです。明らかに直系家族の日本は少子高齢化が進み移民を必要としているはずなのですが。

三浦: 日本はこれまでのところかなりの移民労働者を受け入れているが実態が隠されて見えにくいということが言えますね。しかもあまりに移民労働者の待遇が低い。大規模農業をやるところではもはや移民の労働力なしには難しくなっているのが現状です。

ご質問の点としては、日本社会はスイス型の移民増加を目指しているように私には見えますね。つまりカントンごとにニーズが異なるように日本でも地域的に異なるので、必要な地域には受け入れを増大しつつも総量規制を目指すつもりなのでは。

安倍政権になってから移民受け入れは増加しています。けれども、スイス型のようなものを目指しているように見えます。つまり、スウェーデンがしているように住民として扱うのではなく、統計上は外国人として扱うということです。また、基本は家族を連れずにきて一定期間働いたら帰ってもらうというスタンスです。良し悪しは別として現実はそうなりつつあるように思います。

 

このあとは国際秩序がかなり混沌するとみているトッド氏のお話を伺ったり、こちらから新勢力均衡の話を提示したりしました。
米国のイランとの核合意離脱が北朝鮮に与える影響についてちょっとした意見の違いをやり取りもしました。トッドさんは北朝鮮がアメリカを信用しなくなり、もはや交渉のテーブルにつかなくなるかも、というご意見でしたが、私は北朝鮮はもともと政権交代でころころ態度が変わるアメリカを信用しておらず、自らを特別な国として見ているので実はあまり影響がないのでは、と申し上げました。北朝鮮がやろうとしていることはアメリカの一方的な先制攻撃を抑止することであって、体制保証ではない、ということです。これはそうかもねというかんじで頷いておられましたね。
今、世界ではロシアが正しい振る舞い(主権平等原則を重んじているという意味)をしているとみるトッド氏に対しては、確かに米欧はロシアに厳しすぎると私も思うけれど、やはりシリアでの行動は許容できないし、米国の東アジアにおけるプレゼンス抜きには日本は辛い状況に追い込まれると申し上げました。

米国抜きには東アジアには中国を頂点とする階層秩序しか成立し得ず、勢力均衡はなりたたないのです。これに関しては、ご自分は決してanti-Americaではないし、日本には日米同盟を組むこと以外に選択肢がないのはよくわかると強調されていました。むしろアメリカが自らの力を削ぐような戦争を繰り返し、経済力を損なうような政策を続けていることが問題、というのがトッドさんの従来からのお立場ですね。

今回感じたことは、外国においては、トッドさんの主張にそれぞれの人が自分が見たいものを読み込んでしまっているのではないかという懸念です。トッドさんが日本に核武装を進めたり、自由貿易を批判すると、それぞれの国内政治的な立場から彼の思想の全体性ではなく個別具体的な論点に飛びついてしまう現象が起きやすいのだと思います。

その意味では、日本というよりむしろ世界に目を向けて、米欧の移民政策についてもっと深掘りする時間を割いた方が面白かったようにも思います。
何はともあれ、ご本人は満足して帰られたので、よしといたします。ご視聴いただいた方々、どうもありがとうございました。

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