山猫日記

国際政治学者、三浦瑠麗のブログです

吉本興業経営アドバイザリー委員会のご報告


本日は、吉本興業の件について、まとまったご報告をしたいと思います。今週月曜に吉本興業の経営アドバイザリー委員会の第二回会合に出席してきました。座長から記者ブリーフィングがあった通り、反社チェックの話と契約のあり方に議論が集中しました。今回は全員会合に参加できましたので、この機会に、現時点で考えられる反社チェックについてのあらゆる穴を潰しておこうという目的でした。

反社勢力チェックのあり方

吉本興業は、まさに「興業」からスタートしたということもあり、近年会社としての厳しい反社チェック体制を確立したことはあまり知られていません。国内の大企業の中では銀行がもっとも厳しい反社チェック体制を備えていることで知られていますが、銀行は社内に特別の部門を抱えており、それ以外の大企業は第三者である専門的な調査会社に調査を委託します。吉本興業は同様のかたちで反社チェックを委託しており、すでにそうした近代化が行われています。

ただ、今回の一連のスキャンダルは、そもそも芸人さんの直営業がきっかけでした。したがって、議論の焦点は芸人さんの直営業先をいかにチェックするか、そして、もし吉本興業に申告せずに直営業を行ったときに反社と関わった疑いが生じた場合、どのような対応策を取るのか、というところにありました。

吉本興業は、芸人さんの直営業先を無償で反社チェックするという意向を明らかにしています。ある程度時間はかかることにはなりますが、芸人さんは自身のスケジュールを仮押さえしておいて、吉本興業が反社チェックを済ませ、その結果に問題がない場合には個人で受けるということになるでしょう。

これまでは、直営業先が反社や反グレではないということを芸人さんが自分で確認しなければいけませんでした。そのため、研修などで条例などについての知識を周知徹底してはいたようなのですが、個人で相手が反社かどうかを知ることは非常に難しい。大企業が調査会社にお金を払って初めて本格的な情報が手に入るのですから、当たり前ですね。したがって、単に知識を向上させても再発防止策として十分ではありません。そこで、今回吉本興業は会社の費用で調査をするとしたのです。芸人さんが10万円の仕事を受けるにあたって、依頼先の信頼度をチェックしてもらう調査費用を自腹で払うことは困難です。平たい話が、専属契約・非専属契約どちらにおいても、タレント個人に持ち込まれた他の案件を吉本興業に申告しさえすれば、反社とうっかり関わらないように会社が責任をもって精査してくれるということです。

ただ、こうした無償でのチェック体制を整えたとしても、芸人さんが吉本興業に直営業を申告してくれないリスクは存在します。この点は、芸能界の実態を知らないと見過ごしてしまいがちな観点です。例えば、少額だしいいや、と言う面倒くささから、あるいは、お金をもらえることに事後に気付いた場合です。芸人さんには、相撲と一緒でタニマチがいる場合がいます。タニマチが、ひいきにしている芸人さんの駆け出し時代にご飯をおごったりお小遣いをあげたりするのはままあること。

そこでまず生じるのが、芸人さんが脱税してしまう可能性です。あるいは、相手が実際には反社や反グレだった場合の問題。理想を言えば、練習のためにネタを披露する機会をもらったら、まず吉本に報告して反社チェックが済んでから出かける、お車代程度の謝礼をもらっても、その都度、相手が反社と関りがないという「念書」を取り、きちっと税務申告しなければいけません。けれども、おひねりをもらうたびに「私は反社勢力と関りありません」という念書を取れるわけがないという現実はお分かりですよね。だからこそ、事前に吉本興業に言っていなくても、後から助けてくれる制度を完備するように要請しました。話し合った結果、お金をもらった後に報告し、仮にそのタニマチが反グレや反社であることがわかった場合、お金を返金あるいは被災地などに寄付したりして、以後その人々とは付き合わないとする、などの救済策を設けるべく検討することになりました。

芸人さんにこのような多数の、色々な段階での支援や救済策があることを、いかに分かりやすく伝えるかというのが今後の課題です。

「果たしてそこまでやるべきなのか」という声もあるでしょうが、日本は米国のような契約社会ではありません。実際、吉本も契約書なしで「親と子」のような表現を使って芸人との関係を見てきた経緯があります。それだけに、吉本興業が受ける仕事だけでは食べていけない6000人とも言われる芸人さんたちが、心置きなく下積み生活を送れるように、しっかりと面倒を見るという方針です。

「面倒を見る」と言うのは、吉本興業に所属したから月給を17万円支払って社員として雇用します、ということではありません。そんな方針を決めたら吉本興業にいる6000人の芸人を支えることはできませんし(それだけで会社が負担する税や社会保障含め12億円以上になります)、そのような待遇を求めてさらに多くの人が殺到することになるでしょう。所属タレントを百名程度まで減らしたらよいのではないかという意見もあるでしょうが、それでは吉本興業はお笑い芸人を一から育てることはできませんし、駆け出しの人には「看板」を使わせられなくなる。吉本興業は他の芸能事務所のように、すでに出来上がった人と契約し、数十名の人を十分食わせられる仕事を取る、というような会社ではありません。

大手芸能事務所が多い東京では状況は違うでしょう。しかし、関西において、あるいは日本全国の地方都市で、「吉本興業の芸人」という看板は大きなアピール力を持ちます。その中で、芸人さんは実力主義でのし上がっていく。吉本興業も、注目されがちなTVや劇場の仕事だけでなく、地方創生にお笑いで貢献するなどのローカルな仕事まで取りに行くことで、多様な芸人さんに多様な仕事を提供するというのがあるべき形なのだろうと思います。

契約で気を付けるべき点

次に、同じく重要な契約の問題について討議しました。契約書に関しては現時点では諸原則の議論を行っており、ひな型はまだこれからです。吉本興業は個々の芸人さんとの相談でを通じて、契約に入れたいこと、料率の問題を決めるとしていますが、やはり契約である以上、基本的なひな型は大事です。話し合ったのは、まず基本的な契約上の義務が何であるべきかということと、それから契約を解除する場合の(双方の)条件についてです。

本来は、会社を守る観点からすると、芸人さんが直営業を無申告で行い、それが反社勢力であることが明らかになった場合は契約解除したいところです。会社側の弁護士ならば当然それをアドバイスするだろうし、米国ならば問題なくそうなるでしょう。しかし、カラテカの入江さんに言われて直営業の仕事をしに行った多くの若手芸人がいま復帰しているように、お金の処理と社会貢献活動を通じて芸人として戻ってこられるチャンスを奪うべきではないという結論になりました。

ここは、私も以前「ワイドナショー」で「犯罪を犯したわけでもない、善良な市民として生きていく意思がある者を締め出すべきではない、セカンドチャンスをあげるべきだ」という趣旨の発言をしたところです。ただし、再発防止のためにも、会社に虚偽の報告をしないこと、一度隠してしまっても後からすべて本当のことを言うことが重要です。ここで、注意すべき観点としては、芸人さんに対する公平な処分と取り扱いを確保するように何かできることはあるかという意見が出ました。ここはガバナンスや透明性の問題を話し合う時に帰ってくる点でしょう。

したがって、無申告の直営業をいったん行って、そのあと問題が発覚した場合でも、芸人さんが誠実に吉本興業に情報開示などをしていれば、即契約解除などという方針は取らないことになるでしょう。

そして、芸人さんから吉本との契約を解除するにあたってですが、これは辞めたいときに辞めることができるべきです。これまでも、吉本興業を「辞められない」あるいは「辞めたら締め出すよう圧力をかける」という事態は起きたことはなく、芸名を使わせないなどの例も一度もないという報告を受けました。これは「のん」さんの件で問題視されましたよね。あいかわらず「のん」さんは、キー局のドラマなどに出られないままです。今回、「スッキリ!」の司会を務める加藤浩次さんが「吉本興業を辞める!」と発言した件が話題になっていますが、吉本興業を辞めようが辞めまいが、それで「スッキリ!」の番組が打ち切られるわけではないし、介入はしないということです。

料率に関しては、なぜ一律に何%と定められないのかという意見をよく目にしますが、それは吉本興業が番組制作を含めて請け負っている場合もあれば、タレントのキャスティング要請に応じている場合もあるからです。番組制作費込みで一定の額を吉本興業が受領している場合、何%ということは決められません。それに比して、キャスティング要請に応じている場合については、契約書に料率を書き込むこともできるでしょう。ただ、その場合には柔軟に変えていくことができなくなり、契約更改の交渉が必要になってくるでしょうから、TVに出演が多いスター芸人さんに関しては、契約更改が頻繁に行われる場合もあるかもしれません。一般的に言って、スターだから取り分が多いともいえません。そこらへんの交渉はどうするのか、個々の契約に不満が生じた場合どうするのかは、契約期間の定めなどを含め、まだ詰めていく必要があるでしょう。

会社側の契約上の義務として思いつくのは、専属の場合、しっかりとスケジュールを含めてマネジメントをすること、出演料の受け取りや支払いをすること、クライアント先と経費の交渉をすること、権利関係のマネジメントをすることなどでしょう。そこに、報告を受けた直営業の仕事を含め、反社チェックをする義務が加わります。

例えば、ジャニーズ事務所ではジャニーズタレントの写真が使えないことは皆さんご存知でしょうか。TVでニュースを報じるにも、写真が使えないのでイラストで代用します。それに対し、吉本興業の芸人さんの写真が使えないということはありません。ジャニーズや「のん」さんの件をはじめ、芸能事務所に芸名や肖像権が帰属している場合には様々な問題が考えられますが、そもそも直営業ができている時点で、そして今後も許可するとしている時点で、かなり他と比べて拘束力が緩い事務所だということがおわかりでしょう。

もちろん、吉本興業に所属しているのに、現状十分な仕事が得られないなどの個々の不満はあるでしょう。ですが、やはり外部の目から見れば、事務所が芸人さんを搾取しない、危険な仕事をさせない、過労に追い込まないことの方が重要であり、それが確保された上でのマネジメント努力という優先順位だと思います。吉本興業には芸人さんの取り分が多い劇場の仕事があり、また芸人さんが多く集う番組に知名度のまだ低い芸人をまとめてキャスティングする機会もあります。6000人全員がスターになることはできませんが、今後日本社会は有利な条件を求めて他へ移籍することがよりスムーズになっていくでしょう。その場合、吉本興業以外の芸能事務所の改革も重要になってくると思います。

現実に、松本さんなり、さんまさんなり、本当の実力者はどこでも生きていけます。問題は、中堅や注目若手などの芸能人が一旦芸能事務所に所属すると、しがらみが多くなりすぎること。さらに、人気ではなく事務所の力でひな壇に押し込まれた人が、そこで移籍すれば、その仕事はなくなって当然です。TVには現在、芸能人がたくさん出ています。ローカルからキー局まで、正直名前も覚えきれません。そのギャラは、事務所の交渉力によって、私のような個人の出演者とは異なる水準になっています。日本の芸能界がエージェント契約とその都度のオーディション主体となっていくのは、まだだいぶ先の話でしょう。おそらくエージェント契約で得をするのは実力のある超人気タレントだけです。

さて、芸能事務所がいかにその優越的地位を濫用しないようにするかという課題を細部にわたって見ていくことが今後の課題ですが、そのためにも芸人さんたちから聞き取りをしたいと思っています。会社からの聞き取りはもちろん行われていますが、その目的は要望を聞くことに加え、6000人全員が反社と関りがないことをチェックすることが含まれています。私はむしろ、芸人さんたちの今の悩みや要望を吸い上げていく役割を担うべきだと思っていますので、細かな点は聞き取りに頼りたいなと思っています。

ただ、こうしたことを全部申し上げたうえで、現在の有識者委員の立場では、私も吉本興業に自らの労働時間のすべてを割くことはできかねます。フルタイムの仕事や報酬ではありませんから。また、私はテレビ業界の実情を検事や警察の方よりは知っているかもしれませんが、芸能マネジメント契約の専門家でもないし、弁護士でもありません。

経営アドバイザリー委員会の仕事のスコープは、反社勢力の完全排除のための方策、所属タレントとの契約のあり方、コンプライアンス体制のあり方、コーポレート・ガバナンスのあり方についての提言です。そして、これらの提言を通じて今回の危機をチャンスに変え、公共的な仕事も請け負う、グローバルカンパニーとしての吉本興業の再スタートに糸口を付けることです。今後これらに関して、どのような持続可能な体制を確保できるかまでしっかりアドバイスすることが、私の任務の範囲ではないかと思っています。

*本ブログ記事は8月21日付公式メールマガジン三浦瑠麗の「自分で考えるための政治の話」から一部転載・編集したものです。

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吉本興業東京本社にて
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